2007年07月15日

センチメンタリズム

 白い窓枠、ベージュに緑の花の散りばめられたカーテン、そこから見えるレンガの家々、大きな栗の木と枝に座るリスと小鳥。空は灰色、そよそよ吹く風。ドライでいて気だるい空気、気難しい空気。リズミカルに押し寄せるクリケット場の声援、花壇には紫陽花。

 ポーターにドアを開けてもらい通りに出る。背筋を伸ばしすまし顔で道を渡る紳士、もちろん信号は赤。制服を着た中学生集団とヒジャーブを被った女性とすれ違い、日本人駐在員を追い越して駆け足で真っ赤な二階建てバスに乗り込む。オイスターカードを翳し、席に着く。ここから見える全てが明日には自分のものではなくなるのかと思うと涙腺が緩む。私の日常が私に属さなくなる。馴染んだ恋人と別れる日の様な、妙に落ち着いた、それでいて不安定な、だけど結果を知っている切ない心でロンドンを見る。

 バスを乗り継ぎ大英博物館の前を通り終点で降りる。冬には負のオーラさえ感じた大学の、いつもと同じ中庭で、コーヒーやハリクリシュナのフリーランチ片手に芝の上で議論を交わす学生たち、階段の中腹で懸命に喫煙する教授たち。カードを翳しセキュリティゲートをくぐる。もう一度カードを翳し今度は図書館に入り本を返却する。低い天井、ひしめき合う本と黙々と本に向かう人々、これも「私の」でなくなる風景。なかなか来ないエレベーターを辛抱強く待ち3階に上がり、本当に根気強く不甲斐ない私の面倒を見て支えてくださったありがたい先生方に声をかけ礼を言い、再会を誓い合う。

 大学を出て駅に向かい、オイスターカードを翳し地下鉄に乗る。狭いチューブ、聞こえてくる様々な言語、密度の高い蒸した空気、一年前は聞き取れなかったイギリス英語での車内アナウンスも今では私の日常だ。グリーンパークで乗り換えセントジョンズウッドで下車し、エスカレーターを上がり改札を出る。紫のTシャツを着た男性が配るタブロイド紙を受け取り、ハイストリートにあるテスコに入る。お土産用に2つ買うと50ペンス安くなるハーブティーと、パンとチーズとワインを買い鞄に詰め込んだら、自然と足が向かう先は角にあるパブ。穏やかなグレイの空の下、テラスに腰かけギネスをちびちび飲みながら論文に使う本を読む。ふと顔を上げ辺りを見渡す、なんと言うことない当たり前の日常がここにある。明日も明後日も明々後日も、ここにはこの風景がある。だけどその風景から私は消える、私だけ消える。

 こんなにも切なくなるつもりはなかったので、ロンドンに恋をしたのは心外だと言わんばかりに、途方に暮れる私の体。何故だか一度は住んでみたかったロンドンの街、大人っぽくて隠微で上品で矛盾だらけで飽きの来ない、陰気で芳しい街。何事もなかったかの様に当たり前に私を飲み込み当たり前に私を吐き出す街。ハワイやルイジアナの様に心を乱すパッションは不在でも、後ろ髪惹かれるもどかしい余韻を残す街。こんな素敵な街で、大きな病気もせず、腹をすかせ路頭に迷うこともなく、心優しく聡明で美しい友人たちに恵まれ、無事一年間の留学生活を送ることができた。


 ロンドンへ、
 それからロンドンで私と知り合ってくれた全ての皆さんへ、
 そしてあらゆるロンドンでない場所からラブを送ってくれた全ての皆さんへ。

 「一年間本当にどうもありがとうございました。私は明日日本に帰ります。」

 沢山のキスを込めて、shinakosan。
  

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2007年07月06日

English Garden




The English Cottage Garden (Country Series)
2001
Seven Dials

本屋を物色していると「ロンドンの何を恋しくなると思う?」とロンドナーらしいアクセントで切なそうに彼が言った。「エール」という言葉が出かかったけれどせっかくのセンチメンタリズムなのでこの本に手を伸ばしながら「ガーデンかな?」と答えた。素朴でナチュラルで繊細で計算高いイングリッシュガーデンを私はきっと恋しがるだろう。この本にでてくる「普通」の家庭の手の行き届いた「普通」のガーデンを私は美しいなぁと思う。  

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2007年07月03日

英国のテロの話。

英テロで新たに2人逮捕、計7人「背後に国際組織」現実味
(読売新聞 - 07月02日)

ロンドンやグラスゴーで発生した連続テロ事件で、英警察当局は1日夜、グラスゴーの事件に関して新たに男2人を逮捕した。
 逮捕者はこれで計7人となった。また、英メディアによると、同事件で自爆しようとした犯人の1人がイラク人医師であることも明らかになった。監視カメラの分析などで捜査は予想以上に進展している模様だが、事件の背後には国外のテロ組織が絡み、新たなテロ攻撃が差し迫っているとの報道もあり、今後の展開は予断を許さない。
 スコットランドのストラスクライド警察によると、新たに逮捕されたのは、28歳と25歳の男2人。グラスゴー空港の自爆テロ犯と関係した疑い。逮捕された7人のうち、少なくとも2人は医師だった。英スカイテレビによると、イラク人医師はバグダッドで研修を積んだという。自爆を試みたが、軽傷ですんだ【ロンドン=本間圭一】。





「shinakosan無事ですか?」というメールを沢山もらった。心配してくれてありがとう、私は無事で元気です。ピカデリーは生活圏内だからちょっと怖いなぁとは思ってる。人ごみに行かないと言っても家はロンドン市内だし、大学の最寄り駅は2005年の同時テロで死者が出たラッセルスクエアだし、2週間後に使う空港は2006年にテロ未遂事件があったヒースローだし、にっちもさっちも行かないのが現状。

ブラウン政権になって最初の一大事。ブレアが撒いた種がテロ攻撃という形で芽生えている現実にブラウンはどう対処するのか?憎悪のサイクルから抜け出してテロの標的にならない国作りができるのか?『テロ対策』というかっこいいタイトルに酔いしれ暴走する日米政府とは一味違った英国式を展開できるのか?ブラウンの肩には最初から重石が乗っかってるね、ちばりよー。

それにしても捜査が早い。前にも書いたけど英国には420万個の監視カメラがあって、市民は一日約300台のカメラで撮影され、オイスターカードの使用で行動パターンも把握されてる。悪名高き監視社会だけどテロ捜査には最高に使えるシステムなのでこれからさらに国民監視がエスカレートするかもしれない。日本はこういう風にならないといいのに。あ、でもパスモが流行ってるということはもう始まってるのか。

 
 


最高値クリティカルまで上がったテロ警戒レベルが下がるのを首を長くして待ちかんてぃーしてる。無事に帰国できますよーに。
  

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2007年06月28日

ナンバー10

赤かりゆしウェアブラウン英首相が就任、変革に着手と第一声
 (読売新聞 - 06月27日 23:22)
 
英国のトニー・ブレア首相(54)が27日退任し、ゴードン・ブラウン財務相(56)が同日午後、エリザベス女王から首相に任命された。 英首相の交代は10年ぶり。西欧の主要国では2005年以来、独、伊、仏で政権交代が続いており、ブラウン新首相の登場で欧州の政治は新指導者の時代に入る。 ブラウン氏は同日午後、バッキンガム宮殿で、女王から組閣の要請を受けた後、首相官邸前で演説し、「変革の作業に着手しよう」と述べ、新政権が改革路線を志向すると言明。具体的政策では、医療や教育、政府への信頼回復をあげた。また、「古い政治では変革を実現できない」と述べ、政治のスタイルも前政権から大幅に変える意向を示した。28日にも新閣僚が発表される。【ロンドン=本間圭一】




   BBCのアナウンサーが中継の時にビートルズに引っ掛けて、
   「ブレアsays Goodbye and ブラウン says Hello」
   と言って、得意そうに顎を上げたのが面白かった。
   イギリス変わるといいな。
   それにしてもブレアここにきて人気出てるし。
   ブラウンはどんなんだろう。いい政治しろよー。
   前にも言ったけどイギリスでは、
   首相のこと呼び捨てにする、それっていいと思う。



                                     そういえばタイトルは
                                      ダウニング街10番地にある首相官邸の通称。

  

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2007年06月10日

地下鉄

ロンドンの地下鉄には冷房がなーい。  

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2007年05月06日

ぬちぐすいやっさー

イエェーイ♥(→ܫ←)ぬちぐすいやっさー(→ܫ←)♥イエェーイ

 [[3週間のラストスパート]]と題し(別に題する必要ないけどさ)快楽の全てと睡眠を捨て、胃痛や発熱や抜け毛や腰痛を無視し、朝から晩までPCを抱いて過ごした日々が昨夜とうとう幕を下ろし久しぶりの『週末気分』を味わうことになった、ルンルン。


 日本人駐在員の多く住むエリアの図書館に行って脳みそへのご褒美に日本語の小説を見繕い近くのパブのテラスで生ぬるいエールをちびちびやりながら過ごす昼下がり。ぬちぐすいやっさー。森鴎外の『雁』と志賀直哉の『小僧の神様』を読んで妙な気分になり(感想はまた今度)でも言葉選びがとても上手だなぁーと感心したり(当たり前か!)、とにかくボーっとして太陽にじりじり焼かれながら命の洗濯をした。

 隣の席には男+男カップル、薬指には揃いのリング。英国は2005年よりシビル・パートナーシップ法が施行され同性同士の結婚が認められている。また、同性異性に関わらず婚姻を伴わない同居パートナーに結婚してるカップルと同等のベネフィットを与えるという法律もある。多様な愛の形をサポートする努力をしている英国はなかなかキュートだ。男の一人が森鴎外のファンだといって話しかけて来て『雁』について話すと大そう喜びビールをご馳走してくれた。どのくらい結婚してるのかと聞くと二人同時にウィンクしながら「2005年からだ」と言い立ち去った。いいカップルだったなぁ。

 次に隣の席に着いたのは3人のイギリス男とそれぞれの息子達、週末のロンドンは父+子どもが多い、リージェントパークに行っても母+子よりは父+子、ベビーカーを押して歩く男同士とかなかなか日本ではお目にかかれない絵があちこちに溢れてる。トニーブレアも(そういえば英国メディアでは政治家は大統領といえども呼び捨てにするので楽しい)育児休暇取ってたし、私の知ってるファミリーも皆育児は折半だ。一度おしめを代えたくらいで育児参加(参加という言葉自体胡散臭い)した気になってる夫がいたらイギリス留学させるといい、週末ロンドンで過ごすだけでも結構勉強になると思うよ。
 
 トニーブレアで思い出したけど彼もそろそろ退陣。先日のスコットランド総選挙では労働党を抑えてスコットランド国民党が第一党になったりでなかなか面白い選挙だったけど、労働党の人気がなくなったのはイラク戦争が原因だと言われてる。山口二郎も言うように日本人は既成事実が好きだから「もう送っちゃったのだから今更だよ」とイラクへの自衛隊派遣の是非などは議論しない。でも大量破壊兵器という偽りの大義名分で戦争に加担したことの合法性を今も議論し続ける英国人、なかなかイケテル(→ܫ←)。メディアも政治家も国民も「とにかく戦争は反対」とは叫ばないけど「戦争するからにはしっかりとした道理を通せ」と言う。日本人にはこの「筋道立てて説明しろ!」感覚がないから改憲は駄目だと思うんだよね。長いものに巻かれろで政治家に弱いジャーナリストと政策に甘い国民。戦争をしっかり議論できない国が「戦争できる国」になったら危険だと思わない?

 そんなことを考えてたらお腹が鳴って、その次に携帯が鳴った。タイミング良くランチに誘われたのでバスに乗ってインド料理屋さんへ(私はイギリスで一番美味しいのはインドカレーだと思う)。お魚のカレーを食べながら白ワインを飲んだ。友人は家族がイスラム教徒で酒は一切やらないので代わりにアップルジュースを飲んだ。そして私の中で今一番流行ってるサステナビリティの話をして二人して少しばかり悲しくなった。理想と現実、資本主義の世界でマテリアリスティックに生きる自分が話の内容と上手く噛み合わないのがもどかしい。友人はジュネーブに転勤になり、私も夏には帰国するのでもう暫く(ともすれば一生)会えないかも知れないということでお互いに楽しい未来を歩けるようにと祈ってグラスを合わせた。

 そんなこんなで「ぬちぐすいやっさー(→ܫ←)♥イエェーイ」連発の土曜日でした。10ポンドも使ってないのに羽を伸ばし贅を尽くした気分になれたのも嬉しいな。明日の午前中まではゆっくりしようっと、ルンルン。  

Posted by shinakosan at 07:29Comments(2)TrackBack(1)LONDON